


乱菊物語
『乱菊物語』は、谷崎潤一郎が昭和5年に半年間、朝日新聞に
掲載した小説で、室町末期を舞台に、室津の遊女「かげろふ」
をめぐって大名たちが繰り広げる幻想的な話です。
小説が中絶して未完のまま終わっているのも奇怪さを増していると言えます。
谷崎潤一郎「乱菊物語」から
坊勢と西島の間、天の浮橋を南へ越える。
瀬戸内海は此処で尽きたかと思われるように、
大小の島が機重ともなく折り重なって彼の行く手に立ち寒がる。
直ぐ鼻先に控えるのが高嶋、それにつづく桂島、松島、
大つぶら、小つぶら、長島、三つ頭、右手の院家、鷹羽の島々、
そしてそれらの全体を引っくるめたより更に大きい小豆島が、
無数の民家に取り巻かれた大殿堂のように蟠踞して、
その雲を凌ぐ甍の末は遠く阿波讃岐の山々と阿一つになっているかのよう。
「乱菊すし」が登場しています。
「忌中」の「鹽壼の匙」(しおつぼのさじ)補遺の一部です。
坊勢島の船着場の近くに「乱菊寿し」という鮨屋がある。
平成八年の春のある日、若い男がこの店に入ってきた。
「僕は車谷長吉氏の「鹽壼の匙」を読んで、坊勢島とは
どんなところやろ思て、本土から来たんです。
昔、この島の学校で代用教員をしていた人で、
本土まで泳いで渡った人があったんだそうですね、たった一人で。
のちにその人は自殺したそうですけど。」
乱菊寿しの主人・池田英之氏は驚いた。